教えて!文殊クン おなまえ辞典

おなまえ辞典【仏像編】

まず始めに「仏像の基礎知識」から

皆さんは、少なくとも一度は仏像をご覧になったことがあると思います。
お寺に行くと様々な仏像を見ることができますが、名前が漢字だらけで長く、「○○如来」や「○○菩薩」などなど沢山の名前があって、どう違うのかよく分からないという方も多いと思います。
でもご安心ください。
名前の規則性を知れば、ずいぶん分かりやすくなるんです。
この「基礎知識」を覚えていただくと、仏像がより親しみを感じることができるようになるでしょう。

1)仏像の名前-なるほど!名前を分解すればよく分かる-

ちょっと仏像の名前の例を挙げてみましょう。

木造観音菩薩立像

なんと8文字もあります(これでも短いほうですね)。
ではこれを大きく3つに分解してみます。

木造=材質
観音菩薩=仏像の種類
立像=お姿

つまり「木で造られた」「観音菩薩が」「立っておられるお姿」であることを表しています。
いかがですか、だいぶ分かりやすくなりましたね。

2)仏像の種類-なるほど!4つのグループがあるのか-

とはいえ、まだ目の前に立ちはだかっている壁が「種類」です。
仏像の種類は次のように大きく4つのグループに分けられているので、これが理解できるとさらに見分け易くなります。

[如来]グループ

意味/悟りを開いた者
例/釈迦如来、阿弥陀如来、薬師如来、大日如来など

[菩薩]グループ

意味/悟りを求めて修行をしながら、他者も救済して悟らせる者(如来のサポート役)
例/弥勒菩薩、観音菩薩、千手観音菩薩、文殊観音菩薩など

[明王]グループ

意味/御仏の教えを説いても聞かない人々を教化する役割(大日如来の化身のひとつ)
例/不動明王、金剛夜叉、愛染明王、孔雀明王など

[天部]グループ

意味/御仏の教えや御仏を信じる人々を護る役割。護法神(主に男性神)、福徳神(主に女性神)がある。
護法神の例/梵天、帝釈天など
福徳神の例/弁財天、毘沙門天、大黒天など

3)4つのグループをもう少し詳しく解説

[如来]グループ

釈尊が亡き後にどんなお姿をしていたのかが言い伝えられ、「32の大きな特徴+80の細かな特徴」があるとされました。これを「三十二相・八十種好(さんじゅうにそう・はちじつしゅごう)」と呼び、これらを参考に釈尊の像が造られて「釈迦如来」像となりました。これが仏像の元祖です。

お姿/クルクルと巻かれたパンチパーマに似た「螺髪(らほつ)」が最も特徴的なものです。

衣装/地位や財産を捨てて出家し、苦行を重ねて悟りを開いた釈尊がモデルのため、「納衣(のうえ)」という粗末な衣一枚だけをまとっています。一部の例外はありますが、装飾品の類いも身につけていません。

■如来の種類と代表的な仏像

釈迦如来/釈迦三尊像(法隆寺金堂/銅像/国宝)

阿弥陀如来/阿弥陀如来坐像(平等院/木造/国宝)

薬師如来/薬師如来坐像(薬師寺/銅像/国宝)

毘盧舎那如来/毘盧舎那仏坐像(東大寺/銅像/国宝)

大日如来※/大日如来坐像(円成寺/木造/国宝)

 ※密教から誕生した最高仏で、特別に宝冠と装飾品を身に付けています。

[菩薩]グループ

菩薩とは「菩提薩埵」を縮めたもので、

菩提(ぼだい)=悟り

薩埵(さった)=生ける者全て

が組み合わさり、「悟りを求める者」という意味となりました。そして後世になって、「他者をも救済し、悟らせる者」という意味が加わりました。これがいわゆる「利他行」と呼ばれるものです。

お姿/あらゆる苦しみからくまなく人々を救うため、多種多様な菩薩像が造られています。

衣装/釈尊の王子時代がモデルのため、貴人の姿となっています。頭髪は結いあげており、様々な装飾品を身に付けている場合が多くなっています。

配置/如来のサポート役なので、如来の脇侍として配置される「三尊形式」が多くみられます。

■菩薩の種類と代表的な仏像

弥勒菩薩/弥勒菩薩半跏像(広隆寺/木造/国宝)

観音菩薩/観音菩薩立像(別名:救世観音/法隆寺/木造/国宝)

十一面観音菩薩/十一面観音立像(六波羅蜜寺/木造/国宝/秘仏のため辰年にのみ公開)

千手観音菩薩/千体千手観音立像(三十三間堂/木造/国宝、重文)

文殊菩薩/騎獅文殊菩薩像(阿倍文殊院/木造/国宝)

普賢菩薩/普賢延命菩薩坐像(大山寺/木造/重文)

地蔵菩薩/地蔵菩薩像立像および坐像(六波羅蜜寺/木造/重文)

虚空蔵菩薩/五大虚空蔵菩薩坐像(神護寺/木造/国宝)

勢至(せいし)菩薩/阿弥陀三尊像の脇侍として(浄土寺/木造/国宝)

馬頭観音/馬頭観音立像(観世音寺/木造/重文)

不空羂索(ふくうけんさく)観音/不空羂索観音立像(脱活乾漆造/東大寺法華堂/国宝)

如意輪(にょいりん)観音/如意輪観音坐像(観心寺/木造/国宝)

准胝(じゅんてい)観音/六観音像の一尊として(大報恩寺千本釈迦堂/木造/重文)

[明王]グループ

大日如来の化身のひとつ(大日如来ということは密教ですね)。御仏の教えを説いても、聞く耳を持たない人々を救うためにはもう怒るしか手はありません。そこで怒った姿の分身を作ったのです。

お姿/髪が逆立っている「焔髪(えんぱつ)」、怒りの表情の「分怒相(ふんぬそう)」が共通してみられます(孔雀明王以外)。

多くは「多面多臂(ためんたひ)」で、複数の顔と手を備えた異形のお姿となっています。

また、炎の形の火焔光(かえんこう)を持つ像も多く見られます。

表情/分怒相にもいろいろあり、特に不動明王の「天地眼」は特徴的です。これは右目は天を見、左目は地を見る形です。

■明王の種類と代表的な仏像

不動明王/五大明王坐像の一尊として(東寺講堂/木造/国宝)

降三世(ごうさんぜ)明王/降三世明王坐像(金剛寺/木造/重文)

軍荼利(ぐんだり)明王/五大明王像の一尊として(大覚寺霊宝館/木造/重文)

大威徳(だいいとく)明王/大威徳明王坐像(石馬寺/木造/重文)

金剛夜叉明王/五大明王像の一尊として(不退寺/木造/重文)

愛染(あいぜん)明王/愛染明王坐像(西大寺愛染堂/木造/重文)

孔雀明王/孔雀明王像(金峰山寺霊宝館/木造/重文)

[天部]グループ

インド古来からの神々が仏教に組み入れられたグループで、御仏の教えや、御仏を信じる人々を護る役割を担っています。

数が大変多く、200以上あるとも言われていますが、名前に「○○天」と付く場合が多いので分かり易いですね。

お姿/天部には「こうあるべき」という決まりはありません。性格や役割などによって見た目は異なり、その特徴でさらにグループ分けできます。

護法神グループ/主に男性神。仏法を守護する役割で、複数で祀られることが多くなっています。

福徳神グループ/主に女性神。現世利益をもたらす役割で、単独で祀られることが多くなっています。

■天部の種類と代表的な仏像

[護法神]グループ

梵天/梵天立像(唐招提寺金堂/木造/国宝)

   天部の最高位で護法神の代表格。

帝釈天/帝釈天立像(法隆寺大宝蔵院/木造/重文)

   梵天とともに天部の最高位。

金剛力士(仁王)/金剛力士立像(興福寺国宝館/木造/国宝)

四天王/四天王立像(東大寺戒壇堂/塑造/国宝)

持国天、広目天、増長天、多聞天(毘沙門天※)

 ※単独の場合の呼び名です。

十二神将/十二神将立像(新薬師寺/塑造/国宝)

[福徳神]グループ

吉祥天/吉祥天立像(浄瑠璃寺/木造/重文)

弁才天(弁財天)/八臂弁財天像(江島神社/木造/重文)

大黒天/大黒天立像(延暦寺/木造/重文)

4)その他の仏像

ここまでグループごとの仏像を紹介しましたが、これ以外にも仏像は存在します。
日本古来の神と、渡来してきた仏教も共に敬うための「神仏習合」の思想から生まれた仏像もあります。

[垂迹(すいじゃく)神]

蔵王権現(金剛蔵王権現)/蔵王権現立像(金峰山寺/木造/重文)

僧形八幡神/僧形八幡神坐像(東大寺八幡殿/木造/国宝)

[羅漢(阿羅漢)]

五百羅漢/五百羅漢像(五百羅漢寺/木造/都指定)

[高僧・祖師]

学僧/無著・世親(むちゃく・せしん)立像(興福寺北円堂/木造/国宝)

高僧/鑑真和上坐像(唐招提寺/脱活乾漆造/国宝)

聖人/聖徳太子坐像(法隆寺聖霊院/木造/国宝)

いかがでしょうか。多種多様な仏像ですが、こうして分類してみるとだいぶ理解が進んだのではないでしょうか。

興味を持っていただけたら、ぜひ逢いに出かけてみませんか。

[参考文献/「マンガでわかる仏像」誠文堂新光社]

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